こばるとライダー日記

Soliloquy of a man riding a motorcycle and a convertible

会社帰りの散策

私は大阪市のはずれから、市内の中心部に通勤しています。通勤時間は45分程度です。仕事が早く終わった日は、運動と気分転換のために、1時間ほど大阪市内をぶらぶら歩いて、通勤で使う駅とは違うところから帰りの電車に乗ってます。

 

大阪市内は散策すると、好奇心がいろいろと刺激される街です。古いものと新しいものが楽しく混在しています。中心部には新しいモダンな建物がたくさんありますが、少し離れると昭和を感じる古い街並みも残っていて、タイムスリップしたような感覚を味わえます。やはり歴史のふるい街なので、あちこちで史跡を発見することもできます。

 

雨が降っている夜、土砂降りでなければ、歩くことも多々あります。濡れたアスファルトに、信号やクルマのライトが反射しているのを見たり、川面にビルの灯りが映りこんだりするのを眺めるのは、無料で楽しめるアートのようですね。

 

私は写真を撮るのが趣味なので(というよりカメラが趣味なところもありますが)、写真集を見るのが好きです。作家の感性、意図、技術、被写体はそれぞれ違いますので、写真の作品は千差万別、同じものはありません。その中で好きな作品は、美しいものを美しく撮っている写真ではなく、誰もが普段よく目にしているものを、美しく撮っている写真です。

 

そんな写真を見て思うのは、周りに美しいものがあるのに、普段気づいていないことが多い、ということ。そしてそんな写真を撮ってみたいの二つです。身近にある美しさを、気づいて感じることが出来るなら、我々の日々の生活はもっと楽しくなると思います。少しばかり幸せになれると思うのです。

  

写真だけでなく、音楽や文学作品においても、表現者はそういう視点をテーマにしてますね。

 

「あなたは素晴らしい世界に生きていて、気づいていないだけ。周囲の美しいモノや気持ちに気づいていないだけだよ。ほら心を開いてよく見てごらん」という感じのテーマ。言葉にすると少々恥ずかしい。でも、なんでもない普通のことが、実はすごい価値があることなんだよ、あなたはもっと幸せなんだよと言われると、気分が少し明るくなりますね。

  

ソール・ライターという人は、そんな写真を撮るアーティストです。去年、伊丹美術館で展覧会をやっていて知った写真家です。ファッション写真家でもありながら、ニューヨークの中で生活する人々の1シーンを、美しく切りとる作家でした。雨や雪の中の写真が多いです。私は雨が降ると機材に湿気がついて嫌だなあと思ってしまうのですが、ライターは違います。下の写真は代表作。

 

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暖房の効いた部屋の窓から、外の雪景色を撮った写真です。結露した窓の向こうに見える人のシルエット、ぼんやり見える黄色のトラック、地面の雪などで、なんともいえない絵画のような写真になっています。

 

ライターは、作品の題材を常に探して歩き回っていたから、こういう写真が撮れたのだとは思いますが、私たちの目の前も、気づいていないだけで、実は美しい風景がたくさん通りすぎているのです。

 

ネットやテレビではなく、自分が存在している場所、自分が存在している時間において、目の前にあるリアルな美しいものや面白いものを探してみよう、そんな気にさせる作品が私は好きです。